Weekly Matsuoty 2003/05/20
ブランドの掟
 
「ブランドとは何か?」

この質問のひとつの答えは、「価値観」で ある。特に企業ブランドの場合、そこに働 く社員にとっては、ブランドが体現する価 値観が、自らの発言や行動の判断基準とな る。

ブランドは、商品やサービスの利用体験や 広告だけでは作られない。ブランド名を背 負っているすべての関係者の発言や行動も また、ブランド形成に大きな影響を与える。

したがって、社員は、自らの発言や行動が そのブランドの価値観に照らして適切かど うかを確認することが求められる。例えば、 ソニーの社員の場合、「その発言(行動) は、ソニーらしいか」とお互いに確認しあ うという。

さて、価値観をたくさんの人間に浸透させ るために言葉に表すとき、それは「・・・ してはならない」という禁止の表現を取る ことが多い。これは、宗教でいえばモーゼ の十戒がそうだし、その他の様々な集団の 秩序を守るための基本ルールも、多くは禁 止表現だ。

例えば江戸時代、会津藩の幼年者向けに存 在した「什の掟」は次のようなものだった。

1.年長者の言うことに背いてはなりませぬ
2.年長者にはお辞儀をせねばなりませぬ
3.うそをついてはなりませぬ
4.卑怯な振る舞いをしてはなりませぬ
5.弱い者をいじめてはなりませぬ
  (以下略)

2を除いて、全て禁止表現である。

価値観を共有させるために最低限やっては いけないこと(一部やるべきこと)を定め たものが「掟」と言われるものだが、実は 「ブランド」を守ることの意識が高い企業 では、明確に「ブランドの掟」を定めてい る。ポルシェでは、そのマネジメントの ルールの8割が禁止事項の列挙だそうだ。

“「ブランド戦略」とは、「するべきこと を決める」のではなく、「してはいけない ことを決める」ことである。”

こう主張するのが、法政大学教授、田中洋 氏である。田中氏は、「禁止としてのブラ ンド」という言い方をされている。

私は、これを受けて、ブランドを作り、守 るためには「ブランドの掟」が必要である と主張したい。つまり、ブランドが体現す る価値観を崩さないための「掟」である。 これはブランド戦略というより、ブランド の根幹である。

ただし、田中氏が指摘していることだが、 掟は禁止事項が多くなるために、関係者に は積極的には受け入れられにくい。した がって、経営トップがその掟に対して積極 的に関与し、コミットしていることを示す 必要がある。単なるお題目ではないことを トップ自らが示すということだ。
 
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