Weekly Matsuoty 2003/03/19
ブランドを作ること、守ること
 
ブランディングの議論において、あまり考慮 されてこなかったことがある。それは、ブラ ンディングには2つのフェーズがあるという 点である。

2つのフェーズとは、

・ブランドを作ること(ブランド構築))
・ブランドを守ること(ブランド維持)

である。

これまで、「ブランディング」とは、基本的 に広告の役割だと考えられてきており、その 関心は、「どんなブランドイメージを形成す るか」ということにあった。

しかし、ブランディングを上記2つのフェーズ に分けて考える時、「ブランドを作ること」 においては、「広告は役に立たない」、とア ル・ライズ、ローラ・ライズ氏*は主張する。

実際のところ、広告が「ブランドを作ること」 に全く役に立たないということはないにして も、この主張には一理ある。なぜなら、「ブ ランドを作ること」において目指すべきは、 「信頼形成」であると思うからだ。

広告とは、企業側の自画自賛メッセージであ り、それをまともに信頼する消費者は少ない。 その意味では、信頼形成を目的とする「ブラ ンドを作ること」において、広告は主役には なりえないと言えるだろう。

むしろ、信頼形成に役立つのは、ライズ両氏 によれば、PR(広報)だと言う。つまり、 媒体が、記事として報道する価値があると認 めたものであり、媒体自体の信頼を通じて、 企業なり商品の信頼形成が成されるからであ る。

ただ、私は、PRに加えて、実際の製品の利 用体験や、利用者のクチコミ、Webサイトやe メールを通じた企業情報の開示、あるいは役 立つ情報の提供を「ブランドを作ること」に 寄与する信頼形成方法と考えている。

人は、実際に自分で利用してみるか、あるい は信頼できる第三者の意見を通じて信頼を醸 成する。同時に、企業の率直な情報開示や、 売ることを直接目的としない、価値ある情報 提供ができる企業に対して、好感と信頼感を 抱く。

しかし、広告のメッセージは、イメージは作 れても、信頼は作れない。したがって、「ブ ランドづくり」のフェーズにおける「広告」 は、信頼形成の拡大を支える、「認知度向上」 の効果しか持たないのである。

一方、「ブランドを守ること」の主役は広告 である。「ブランドを作ること」を通じて形 成された、そのブランドならではのイメージ、 つまりブランド・アイデンティティを強化し、 リマインドし続けるために、広告は重要とな る。あるいは、信頼を土台として、ブランド イメージを変化させたい時にも広告が必要と される。

いまさら指摘するまでも無いかもしれないが、 私が在籍したネットベンチャーのI社を含め、 多くのネットベンチャーが、「ブランドづく り」において、広告を多用し、結果、顧客を 獲得するだけの信頼を得ることができずに消 滅していった。逆に、当初は地道なPR活動や 草の根的プロモーションを通じて、顧客の信 頼を得ることを大切にした企業が生き残った。

「ブランドづくり」の目的である信頼形成は、 時間がかかる。広告で短期的に実現できるも のでは決してない。どんなに素晴らしいブラ ンドイメージを作れたとしても、土台に信頼 がなければ、売りにはつながらない。そう考 えると、やはりビジネスは、常に長期的な視 点で考えるべきなのだろう。

*「ブランドは広告でつくれない」(翔泳社) の著者
 
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