Weekly Matsuoty 2001/06/19
カスタマーイヤー
 
 以前お世話になった、専門商社ミスミの役員の方に5年ぶりにお会いする機会があった。

 以前も取り上げたことがあるが、ミスミは現在、社員約250人、直近年度の売上560億円、売上高経常利益率12%の超優良企業である。

 同社は、超精密部品等のカタログ通信販売で基盤を築いた後、さまざまな事業分野へと進出し続けている。

 例えば、医療施設を対象とした医療用手袋などの医療品分野、あるいは、飲食店を対象とした食材分野など。(すし屋は、ミスミのカタログから、調理済みの卵焼きを購入することができる!)

 さて、その役員の方が以前からおっしゃっていたことは、新規事業分野にいったん進出したら、基本的に撤退することはない、という企業姿勢を取っているということである。つまり、利益がでるようになるまでとことん粘ると言うことだ。

 これまでの新規事業も大抵、1−2年は全くと言っていいほど売れない、鳴かず飛ばずの時期が続いたと言う。事業担当者にとってはとてもつらい状況だろう。売れない時期、担当者は必死で顧客のニーズを探り、知恵を絞って、さまざまな工夫をする。そうして、1年くらいしてようやく徐々に売れ始める。

 彼らの経験則から、顧客はそんなに早く自分の購買行動を変えることができないという点をわかっているから粘るのだろう。

 どんなに新しい、画期的な技術・製品が登場したとしても、必ずしもすぐに顧客が飛びつくとは限らない。もちろん飛びつく人間もいるが、それはイノベーター層であって、ビジネスが成立するほどの数は存在しない。

 思えば、ドッグイヤーだとか、マウスイヤーといった言葉で、「インターネット以後」の状況の環境変化(主に技術革新)の速さを形容し、誰もが新しい技術・サービスを超スピードで始めることにやっきになっているのがネットビジネスだった。

 しかし、冷静に考えれば、また「フィールド・オブ・ドリームズ症候群」に陥っていただけなのかも知れない。「新しい技術があれば人はやってくる」「新しいサービスがあれば人はやってくる」と考えるのは果たして正しいのか?

 環境変化が、ドッグイヤーと呼ばれるほど速いものだとしても、顧客の変化は決して速くない。イノベーター層だけをターゲットとするのならまだしも、マスユーザー層を狙うのなら、じっくり腰を据えて事業に取り組むべきだろう。

 多くの人にとって、1年は1年分であり、7年分ではない。「ドッグイヤー」のかわりにあえて、「カスタマーイヤー」という言葉を使いたい。

 新規事業に取り組んでいる皆さん、粘り腰で、我慢強く顧客のニーズに対応していこうではありませんか。
 
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