Weekly Matsuoty 2000/08/15
ブランド・インテグレーター
 
 ナップ氏は、著書「ブランド・マインドセット」(邦訳書は翔泳社刊)において次のように述べている。

 “ほんもののブランドでは、製品も、サービスも、ただ単なる「属性」や「ものごと」の集合体ではない。生活者はブランドのゲシュタルト、即ち計測できるものも、できないものも(機能的なものも、感情的なものも)含めた、認識できるものの全体によって心動かされるものだ”

 私が重要だと思うポイントは言い換えるとこうなる。

 人は、ブランドをその構成要素に分解して認識してはくれない。

 例えば、「雪印」というブランド名がぶらさがっている限り、牛乳であろうが、バターであろうが、社員だろうが、販売店のおじさんだろうが、すべて雪印というブランドそのものなのだ。

 だから「ブランド・インテグレーター」の存在が企業には必要である。ブランド・インテグレーターは、ブランドに関連するすべてのメッセージの整合性を図ることに全精力を投じる。

 ここで、「メッセージ」とは、顧客側から見ると、あるブランドに関連した広告・宣伝、プロモーション、コールセンターのオペレーターの対応、当該ブランドを販売する営業マン、小売店の店員、アフターサービスを担当するサービス要員の対応、社長を含めた全社員の発言・行動のことである。

 顧客は、当該ブランドに対する「良い・悪い」「合う・合わない」「好き・嫌い」といった評価をすべてのメッセージの総合的評価として下す。

 もしも企業が言葉で発する、あるいは行動で示すメッセージに不整合があればどうなるか?

 不整合があると、「そのブランドはそもそもなんなのか」というブランド・アイデンティティが確立されず、顧客にとって理解しがたいブランドとなる。あるいはこれまでの長期にわたるメッセージの積み重ねで確立されたブランド・アイデンティティが崩壊する。結果、購入行動が抑止されることになる。誰だって理解できない物事とは関わりあいを持ちたくないからだ。

 ブランドを作ること、維持することは、これまでマーケティング部門の役割だと考えていた人が多いと思うが、実はとてもマーケティング部門だけでは統合者(インテグレーター)の役割を果たせないことがよくおわかりになると思う。

 ブランドに関連する全てのメッセージに整合性をもたせることができるかどうかは、方向付けの問題であり、それは社長の役割である。

 ブランド・インテグレーターとしての役割を明確に認識し、実行に移すべき人は社長自身なのだ。

 付け加えるならば、実施段階における責任は、「Customer Relationship Manager」が受け持つ。
 
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