Weekly Matsuoty 2000/02/28
消費者共産主義
 
 「口コミ」の重要性、有用性は、これまでも理解されてきたが、特に「インターネット」登場後は、「口コミ」戦略の策定と実施、その効果測定が容易になったことから、マーケティングプランには必須のアイテムになってきた。

 「口コミ」戦略とは、簡単に言えば、「既存客を自社製品のセールスマンに仕立てる」ことである。同じユーザー側の立場にいながら、自社製品を宣伝し、購入を促すのだから、効果抜群だ。

 しかし、厳しい見方をすれば、「口コミ」戦略は安易な手法である。自らのコミュニケーション努力を放棄していると言っても良い。

 なぜ「口コミ」に消費者は頼るのか、それを考えてみて欲しい。数ある商品の中から、どれが一番良いのか、を決めるのが困難だからである。良くわからないから誰かの意見に頼らざるを得ない。商品の良し悪しの判断基準がわからない、だから他人の判断基準を拝借することによって、間に合わせる。

 消費者みんなが、企業のメッセージではなく、他人の言葉に従って、みんなが買っているものを購入するようになること、を元コカ・コーラ社マーケティング最高責任者のセルジオ・ジーマン氏は、「消費者共産主義」と呼んでいる。

 「消費者共産主義」はマーケターにとって悪夢である。なぜなら、マーケティング・コミュニケーションの失敗を意味するからだ。

 マーケターが、消費者に対して説得力のあるコミュニケーション、言い換えるとブランディングがうまくできていないから、企業のメッセージではなく、他人の言葉に頼らざるを得ないのである。

 ではブランディングの成功とはどんなものか。まず自社商品と他の商品を比較するための基準、つまり評価・判断基準を消費者の頭の中に定着させる。そして、自社製品がその評価・判断基準に照らしてどこに位置するのか、また他社製品がどこに位置するのか、を教える、これを一連の、統合されたコミュニケーションの中で実現する。

 これが正しいブランディングである。単にブランドのアイデンティティやパーソナリティを規定してそれを表現するだけでは駄目である。何らかの評価・判断基準もあわせて示す必要があるのだ。そうすれば「口コミ」がなくても、自分の判断でどんどん買ってくれる。

 具体例で示そう。使い古された事例だが、アサヒのスーパードライ、これは「コクとキレ」という判断基準を提示した上で、このビールが両者を持つ唯一の製品であることを示し、明確に他社製品との違いを示した。また、次には「鮮度」という評価軸でスーパードライの優越性を示した。実は他社も鮮度については遜色ない物流体制を有していたのだが、「鮮度」という判断基準でビールを位置付けるべきであること、を最初にコミュニケーションのテーマにしてアサヒは成功したのである。

 一方発泡酒の分野では、サントリーの「マグナム・ドライ」の一人勝ちの感がある。これはスーパードライにつながる「ドライさ」と「安さ」という2つの評価軸を打ち出すことに成功したからである。他社製品はいまだに明確な評価基準を示すことにできていない。だからわかりやすい「マグナム・ドライ」に流れるのだ。

 ブランディングに失敗すると、「消費者共産主義」に陥る、このことをマーケターは忘れてはいけない。まずは、購入すべき商品はどれか、を自分で決めることのできる評価・判断基準を与えるコミュニケーションはどんなものか、に知恵をしぼるべきなのだ。

 「口コミ」に頼るのはそれからだ。
 
close