Weekly Matsuoty 2005/02/07
見える人には見える
 
“大切なものは目には見えないんだよ”

童話、星の王子様の中で一番印象的な言葉 だ。たかが童話とあなどることなかれ。こ れほど、ビジネスにおいても本質を突いて いる言葉は他にはない。

・アフターサービスの人員を削減する
・原価の安い原材料に切り換える
・品質管理を甘くする

コストの削減につながる、このような経営 判断をする企業は実に多いが、確かに短期 的には業績(利益)は改善する。

しかし、サービスやクオリティの低下は目 には見えないところで、じわじわと客離れ を招く。そして、ある日突然(のように感 じられる)、売上が大きくダウンして右往 左往することになる。

吉野家の以前の倒産の原因が、牛肉の品質 を下げたことによる客離れにあったのはよ く知られた話だ。現在、競合他社がなんら かの方法で牛丼を再開しているのに、吉野 家だけは、頑なにその再開を我慢している のは、倒産という極限状態を経験している からである。

業務で発生するコストの中には、実質的に 無駄なものもある。しかし、売上と裏で密 接につながっているものは、決して無駄な コストでははない。文字通り「必要経費」 なのである。

「にわとりを殺すな」を書いた、ケビン・ D・ワン氏は言う。

“売上と「赤い糸」で結ばれている業務が あるのです。そうした業務をコストカット のために減らすと、最終的には企業自体が ダメになります。”

“それは、いわば、「手術は成功したが、 患者は死んだ”という状態です。”

売上と「赤い糸」で結ばれているもの、そ れは、おおむね「ノウハウ」「サービス」 や「ブランド」といった‘見えざる資産’ である。これは模倣が難しい、高い競争力 を生みだす源でもある。

「赤い糸」も「見えざる資産」も、目には 見えない。しかし、この見えないものを大 切にできるかどうかで勝ち負けが決まる。

「見えざる資産」の重要性を説く、一橋大 教授の伊丹敬之氏は、

“禅問答のようですが、「見える人には見 えるんですよ”

と経営の秘訣を聞かれて答えている。

優れた経営者は、目には見えないが、大切 なものが何かが、はっきりと見えているの である。
 
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