Weekly Matsuoty 2002/06/13
価値観こそがすべて
 
 先日、bk1の書評執筆のために「隠れた人材価値」(翔泳社)を読んで、一種の驚きというか、感銘を受ける点があった。

 それは、企業繁栄の鍵は、ひとえに経営者の持つ「人間重視の価値観」がどれだけ組織内に浸透しているかどうかにかかっている、という点である。

 一般に経営資源と言われてきたものは、ご存知の通り、「ヒト」「モノ」「カネ」、さらに近年追加された情報」である。そして、知識経済化が進む今、これら4つの経営資源のうち、「ヒト」の重要性がますます認識されてきていることは言うまでもないだろう。 本書では、厳しい経営環境化で高い業績を上げ続ける企業に共通して見られること、それは、最前線でがんばっているフツーの社員一人一人が持つ優れた価値(才能)を引き出し、最大限に発揮することに成功しているという点である。

そして、この社員の隠れた価値を引き出す秘密は「経営者の価値観」だと言い切る。社員をとことん信頼し、自立的な行動を尊重する価値観を組織の隅々まで浸透させることが、大切だと言うのだ。

著者は、ビジネススクールの教授らが書いた本だから、あからさまには書けなかったかもしれないが、本当は、

 「戦略なんかいくら洗練させても無意味、経営者の価値観こそがすべてだよ」

と単刀直入に書きたかったのではないかと感じるほどである。

実際にさまざまな事業立ち上げに関わってきた経験から、私もそれは正しいと思う。経営者の人間重視の価値観とは、つまりは、社員の自立的な判断・行動を促す、明確な行動指針を意味する。行動指針が不明確だったり、しょっちゅう変わるようなことがあると、社員たちは、それぞれ自分勝手な判断、行動を始める。それは内部からの組織崩壊につながるのである。

 ついでながら補足すると、価値観自体が揺るがないものであれば、戦略や戦術レベルでの方向性の変更は、朝令暮改でも構わないと思う。

 行動の根本にある「価値観」はとことん維持するべきだが、環境適応のための行動は、すばやく柔軟に変えていくべきだろう。明確な価値観に基づいた変革は、たとえ組織内に軋轢を生もうとも、断固として進め、決してためらってはいけないのだ。

 
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