Weekly Matsuoty 2000/11/14
コモディティ商品化とイノベーション
 
 今回も、具体例をあげてより理解しやすい内容とするため、私自身のあまり公表したくない頃の話から入らせていただく(^^;

 私がマーケティングリサーチ業界に入る前、1年半だけだが旅行会社に在籍していた。旅行の企画や手配、添乗員なんぞをやっていたわけである。こう聞くと、たいていの人は、「今のイメージからは、とても添乗員をやっていたとは想像できませ〜〜〜ん!」と言われてしまう・・・。

 確かに自分自身でも違和感を感じており、だからわずか1年半で転職してしまったのだが、違和感以上に限界を感じたのは、旅行という商品の差別化の難しさだった。

 旅行は、「交通機関」「宿泊施設」「観光名所」といったもので構成される。問題なのは、これら旅行商品を構成する要素(部品)がどの旅行会社にとっても基本的には等しく入手可能な点だ。入手可能な部品が共通であり、旅行商品としては「どう組み合わせるか」しかできることはない。

 各旅行会社のパンフレットを見ていただくとわかるが、どれを見ても同一地域への旅行の内容は似たり寄ったりである。部品が同じなのだから当然の結果だ。

 大手の旅行会社なら、人気ホテルの部屋をあらかじめおさえて、実質的に他社が入手不可能とするということができる。それができるのはわずか上位数社であるが、全室をおさえるほどのリスクは取れないので、規模のパワー行使にも限界がある。なんせ、サービス財なので、在庫になったら後で売りさばく、といったことができないからだ。

 結局のところ、旅行商品は日用品と変わらぬコモディティ商品であり、ベタな営業力で勝負するしかなく、どんぐりの背比べ的な競争を長年繰り返すしかないと、私は早々と結論づけてしまったわけだ。

 しかし、今考えてみると、青二才の浅はかさだった部分も多い。当時は見えなかったが、差別化の難しい業界でも、きちんと独自のドメインを確立し、安定した利益を出している企業が存在する。彼らは「イノベーション」に取り組み、成功した企業である。

 さて、ここで「イノベーション」だ。この言葉も本質がよく説明されないまま安易に使われることが多い言葉のひとつである。

 私流に定義させてもらえば、

 「イノベーションとは、他社ができないような思い切った施策に取り組み成し遂げること」

 である。

 HISを見て欲しい。彼らが創生期に取り組んだのは、当時日陰の存在だったディスカウントチケットだった。特に大手が及び腰であったこの分野において、圧倒的な地位を確立したことが10数年前にはわずか数十名だった企業をJTBや近ツリと比較される地位まで押し上げる基盤となった。(今総合旅行会社の道を歩んでいるのは、ある意味危険な兆候だと思うが)

 また、日帰りバス旅行で独占的な地位を築いている阪急交通社。日帰りながら、観光名所にいけて、たいてい食べ放題(寿司や松茸)の昼食や、ぶどう狩り等が含まれ、一人あたり3-5千円である。お寿司食べ放題とかいっても、薄っぺらいネタの載ったお寿司マシン製であるのが実態であるが、まあ価格相応であり、中年層を中心に大変な人気である。実はこの価格設定も他社ではとても真似できない集客数を思い切って見込んでいるから、低価格に設定可能なのだ。

 上記の2社とも、他社にはなかった勇気を持って、他社が踏み出せないフィールドに入ることで現在の地位を築いた。これこそがイノベーションだと思う。

 現在、インターネットの急速な普及とeマーケットプレイスの登場により、あらゆる産業界において部品の共通化が進みつつある。これは、旅行商品と同様、通常のやり方では差別化困難なコモディティ商品化が進展していることを意味する。

 こんな時代、イノベーションを実践できない企業は“負け”である。
 
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