Weekly Matsuoty 2000/02/14
情報創造セクター
 
 「これは売れる」と自信を持って出した商品が売れない。めちゃくちゃ売れているので不思議に思って調べてみたら、本来想定したのとは違う用途に使われていた。「なんでこんなものを買うの!?」という商品を身に付けた女性があふれている。

 こんな現象が頻繁に起こる。だから商品開発はとても難しい。これまでのアプローチでは。

 これまでのアプローチは、「刺激−反応パラダイム」に基づくものである。人を単なる情報処理システムとみなし、ある刺激を与えるとその刺激に反応してある一定の反応を起こすことができる、という考え方である。

 つまり、情報処理を得意とするコンピュータのように、インプットに対し、脳内のロジック(処理方法)に基づくアウトプットが基本的には自動的に決まると考える。インプットが決まればアウトプットが決まるということは、回帰式のような関数で解ける問題であり、関数で解けるということは、将来予測ができる、つまり何が売れるかが高い確率で推測できる、ということになる。

 しかし現実はそうではない。何が売れるのかますますわからなくなってきている。どんな商品を開発したらいいのかさっぱり見当がつかないのが現状である。なぜか?

 人は情報を創造するシステムだからである。

 外部からの刺激(情報)に対して、人はまず「短期記憶」でその情報を自分なりの解釈で取り込む。これを「情報取得プロセス」と呼ぶ。自分なりの解釈とは、人がこれまでの経験や知識のつみ重ねから形成された空間にその情報を位置付けることである。

 言い換えると、人はそれぞれ固有のポジショニングマップを所有しており、それぞれの情報を自分のマップの適切だと思うところに配置するのである。その上でその情報の価値を判断する。

 さらに、その情報を処理(比較、判断など)して、具体的な行動に利用しない情報は、「長期記憶」に転送される。長期記憶とはさまざまな情報が詰まっている場所であり、新たに転送されてきた情報は、「短期記憶」で与えられたマップ上の位置に基づき、格納される。

 コンピュータと比較で言えば、「短期記憶」は「メインメモリー」、「長期記憶」はハードディスクであると言えるが、人の記憶のメカニズムがコンピュータと大きく異なるのは、有機的な処理システムであるがゆえに、情報同士が混ざり合って変化を起こし、新たな情報が「長期記憶」内で生成されるということである。コンピュータのハードディスクでこのようなことが起こると、不具合によるデータ間の過干渉ということになるのだが、人の場合、これこそ新たな情報の「創造」を意味する。そしてそうやって創造された情報がアウトプットに大きな影響を与える。

 つまり同じインプットに対しても、予想もしない様々なアウトプットを生み出すのが人である。情報を単に処理する「情報処理セクター」ではなく、情報を創造する「情報創造セクター」を有しているのが人の特質である。売れると思った商品が売れないのも、予想もしない使い方をするのもこんな情報創造を人が行うからである。

 こんなやっかいな特質を持つ人々に受け入れられる商品を開発し、あるいはマーケティングを実施するためにはどうしたら良いのか?
 
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