Weekly Matsuoty 2000/05/23
Hype & Craft
 
 Hype=誇張型の人間と、Craft=技能型の人間がネットビジネスには存在する。

 Hypeとは典型的な起業家のことである。一攫千金を狙い、壮大なビジョンを語って投資家を口説き、顧客にはこれまでやったこともないヘビーな仕事を約束してくる。何よりも、スピードが最優先であり、後先を考えないで突っ走る。

 一方、Craftとは職人であり、例えばWEBデザイナーやプログラマー達のことを指す。彼らは完璧な仕事、エレガントな仕上がりを求める。納期という言葉はあまり好きではない。

 さて、通常ネットビジネスでは、Hypeが命令系統の上位に位置し、Craftに指示を出す。事業創造においては、まずビジョンと戦略ありきであり、Hypeがその部分を主導するからである。

 だが、現場は戦略だけでは動けない。綿密な実行計画、詳細設計書に基づいた地道な作業の連続である。前回に述べたオペレーションモデルの構築のプロセスであり、職人たるCraftの出番である。

 HypeとCraftは、大胆と緻密、あるいは無謀と堅実と言い換えてもいいと思うが、基本的に対立する考え方、スタイルである。したがって、多くの場合、同一組織内のHypeとCraftは様々な摩擦を生み出す。Hypeは、「とにかくオレのビジョンを実現するために、言われた通りのものを作ればいいんだ!」と叫び、Craftは、「夢を語るのはいいけど、現実を直視してもらわなきゃ、ちょっとは現場の話も聞けよ!」と腐る。

 Hypeが強すぎると、現場がついてこれずにコンセプト倒れとなるが、Craftが力を持ちすぎると革新的なアイディアが実現されず、平凡なビジネスモデルに落ち着いてしまい、結局のところ生き残れない。

 だから、Hype型の人間とCraft型の人間がそれぞれの持ち味を尊重しあい、学び合えるような企業文化を形成することが、斬新なビジネスモデルを実現させるためには必要なのである。

 ただ、企業文化とはそもそも時間をかけて形成されていくものであり、創業間もないネットベンチャーが、HypeとCraftの対立をうまく止揚して、成果を生み出せるような文化を即座に作ることはできない。そもそも、ものすごいスピードで企業自体が変化、膨張しているので、文化が定着する余裕がないのである。

 そんな中で、あるひとまとまりの業務を遂行するチーム(数人から20人程度までの部署単位以下の組織)は、業務遂行を通じて結束感を高めていき、チーム文化と呼べるものが早期に生まれてくる。人材育成も、企業レベルではなく、このチーム内で行われるようになる。

 ニューヨーク大学講師、アート・クライナー氏は、次のように述べている。

 インターネット関連の新規企業の創業者にとって最も重要な仕事は資金の調達ではなく、機能不全に陥った社内政治に惑わされることなく、チームのための環境を整備することである。創業者は、チーム間の情報交換、必要な人材の交換、そしてお互いから学び合うことを容易にかつ自然にできるような組織内インフラの整備を行う一方、チームに自主性を持たせなければならない場合と、彼らに干渉しなければならない場合とを見極める必要がある。
br  「チーム文化の尊重」が、HypeとCraftの混在する不安定なネットベンチャーにとって最も重要な組織戦略なのである。

*この拙文は、「インターネット時代の企業文化」(アート・クライナー、Eビジネス 勝者の戦略、日本ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン Eビジネス戦略グループ編)を参考にしました。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492530800/
 
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