Weekly Matsuoty 2003/06/17
多次元なわたし
 
SFのような話だが、量子力学に「多次元 世界理論」というものがある。宇宙には、 同時に複数の世界が存在し、並行して変化 しているという考え方だ。正確なことはわ からないが、以前読んだ書物の記憶では、 多次元世界の見方に立てば、わたしという 人間は唯一、この世界だけに存在している のではない。並行して変化している他の次 元の世界それぞれにも私がいる。つまり私 は、多次元にわたって複数存在しているの である。

最近、キャリア関連の本を読んでいて、 上記のことを思い出した。なんとなく関連 性を感じたのである。「ハーバード流 キャリアチェンジ術」を書いたイバーラ氏 は、「本当の自分」が存在するという考え 方を否定する。むしろ、数多くの自己像が あり、どれが最もふさわしいかは、ともか くはやってみて、実感してみるしかないと 主張する。

確かに「本当の自分」がどこかにあるはず だと考えると、それが見つかるまで行動は 起こせないことになる。従来のキャリアデ ザインの考え方では、これは「目標設定」 のことである。しかし現実には、ほとんど の人にとって、1つの目標に絞ることはと ても難しいことだ。何をやりたいのか、何 をゴールに置くべきなのか、簡単には決め られないのだ。

だから、人生やキャリアを考える際には、 目標設定にこだわるより、将来のありたい 自己イメージについて、複数の様々な可能 性を洗い出し、実際に試行してみることを 通して、よりふさわしい生き方を見出して いく方が実践的である。最初からひとつに 決める必要はない。

このようなやり方は、まるで、多次元世界 をあちこち移り歩いているようなものでは ないだろうか。例えば、ある転職が、それ からの自分の人生を大きく変えることに なったとする。しかし、転職をしなかった 自分も、それなりの生き方をしていたはず である。

転職をした自分、転職をしなかった自分、 そのどちらが、ふさわしい(望ましい) 自分であるかは、転職をした自分の世界に いってみないとわからない。別の世界に 移るリスクは十分考慮しなければならない が、綿密な計画よりも行動ありきである。
 
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